結局GLP-1ダイエットって危険なの?②(リベルサス誕生秘話編)

ここからはリベルサス誕生までの道のりをご紹介します。歴史を知ることで薬の特性を知ることができます。

インクレチンホルモンであるGLP-1は、体内のDPP-4という分解酵素によって速やかに分解されてしまうため、単純に製剤としてGLP-1を投与をしても効果がほとんどありません。

そこで、開発されたのがGLP-1受容体作動薬でした。
ヒト由来のGLP-1の分子構造をアミノ酸修飾によって改良することで、GLP-1が体内のDPP-4による分解を受けにくくなったのです。GLP-1受容体作動薬は、その94%がヒトGLP-1と同じアミノ酸配列となっています。GLP-1と同様の効果を持ちながら投与が可能な薬剤が登場ました。

このようにして開発されたのがオゼンピックやサクセンダ等のGLP-1受容体作動薬の注射製剤だったのです。

しかし、ここでもう一つ問題点が出てきます。

この薬剤は、糖尿病の患者に対する治療薬として開発されました。しかし、規則正しく自己注射が可能な患者様がいる一方で、自宅での生活になると自身での投薬ができなくなる患者様もいるのです。
効果が長く続くものであれば1週間〜1ヶ月単位での外来通院時に注射投与を行えば問題ないですが、定期的な自己注射が難しく、その上頻回に受診することも難しい患者様もいます。なんとか経口内服が可能な治療薬に変えられないかという課題が出てきました。

しかしながら、GLP-1はペプチドであり酸性に弱く、また分子量が大きいことから消化管で吸収されづらく、胃の分解酵素により速やかに分解されてしまうため、飲み薬での内服は困難と考えられていました。

2019年、GLP-1の研究者に激震が走りました。


GLP-1受容体作動薬の一つであるセマグルチドに改良を重ね、世界初の経口GLP-1受容体作動薬であるリベルサスという薬剤が開発されたのです。

GLP-1受容体作動薬にSNAC(サルカプロザートナトリウム)という吸収促進剤を使用することで、セマグルチドとSNACの複合体が、胃内のペプシンという消化酵素によって分解されにくくなり、胃からの吸収が促進されることで経口内服でも効果を発揮することができるようになりました。

これは革新的な技術でした。

こういった経緯で世界初の経口GLP-1作動薬が開発されました。
それでもまだまだ問題点は山積みです。経口ペプチドは上記の理由からバイオアベイラビリティが低く、SNACを使用することで改善されたものの、それでもセマグルチドの経口投与でのバイオアベイラビリティは1%と言われています。つまり、99%は以内に吸収されず小腸で分解されているということなのです。

*バイオアベイラビリティ
人体に投与された薬物のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す数値

注射用製剤が週1回や月1回投与が可能である一方で、リベルサスは毎日内服する必要がある理由はここにあります。セマグルチドの*半減期は1週間程度となっているため、1週間程度で効果が消失するため週1回の投与が可能です。
対してリベルサスは半減期は変わらないものの、体内吸収率がかなり低いため一回の内服あたりの有効成分は遥かに少なく、毎日の内服が必要となっているのです。

*半減期
血中薬物濃度が半減するまでに要する時間を指します。 半減期が短いということは、薬物が素早く代謝・排泄されることを示しており、薬の効き目も短い。 反対に半減期が長ければ、薬が体内で作用する時間が長いことを意味します。

ここまでがリベルサスの開発に関する歴史となります。薬の歴史を知ることでその薬にどんな特性があるかなんとなく理解できたのではないでしょうか。

次の記事では実際にGLP1受容体作動薬が臨床においてどれほど効果があるか見ていきましょう。
結局GLP1ダイエットって危険なの?③(糖尿病患者に関する研究編)

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結局GLP1ダイエットって危険なの?⑤(結論編)

・参考 読み物

リベルサスの副作用 吐き気の対処法

リベルサスが効かない時(リベルサスの効果的な服用方法)

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