結局GLP1ダイエットって危険なの?④(健康な人が飲んだら…編)

ここまでは全て成人糖尿病患者に対する研究結果を解説してきました。

糖尿病じゃない患者に対する投与に関する研究はどうなっているのでしょうか。

昨年2022年秋頃から、糖尿病でない患者の研究結果も複数出てきました。
以下はそのうちの一つで、2022年10月に世界で最も権威のある論文雑誌の一つである「Nature Medicine」に掲載された研究となります。

https://www.nature.com/articles/s41591-022-02026-4

直訳すると、「過体重あるいは肥満の成人に対するセマグルチドの2年間の効果」という論文です。

注意しなくてはならないのは、糖尿病でない肥満患者の、あくまで2年間の効果を比較した研究であるという点です。
ここでは「糖尿病を伴わない肥満(BMI 30以上)、または過体重(BMI 27以上)で少なくとも一つの体重関連合併症を有する成人」と定義されています。
比較対象となった患者の特性も見ていく必要があります。以下は研究に参加した患者の特性を表しています。

ほとんどの参加者は女性(236名(77.6%))、人種は白人(283名(93.1%))で、平均年齢は47.3歳、BMIは38.5、平均体重106.0kgとなっています。

これこそがGLP1ダイエットが危険と言われる所以なのです。

世界で認められている論文はまだ国外高度な肥満患者での研究結果しか発表されておらず、また、長期的な使用に伴う研究も発表されていません。また、外国の肥満な方と日本人の一般的な体型には差があるため、小柄な日本人が同用量の薬剤を服用しても効果だけでなく副作用も強く発現してしまう可能性もあるということです。

このような理由で国内ではまだ糖尿病患者以外の患者に対する処方は保険診療では認められておらず、自由診療に限られているのです。

さらに、最近は若くて肥満でない女性の間でのGLP1ダイエットが流行りつつあります。これについても全く同様で、これまでに安全性が確保された研究結果がないのです。だからこそ、GLP1ダイエットは危険と警報を鳴らされているのです。

だからこそGLP1ダイエットとは、患者のメリットがデメリットを上回り、服用が可能と判断した場合に、医師の管理下のもとで処方が行われる必要があります。

以下、論文の解説を続けますが内容がやや難しくなっていきます。

結論

セマグルチドを投与した患者と、プラセボを投与した患者の104週目までの体重の推定平均変化が以下のグラフとなっています。ベースラインから104週目までの体重の推定平均変化率は、セマグルチドで-15.2%、プラセボで-2.6%と、セマグルチドの体重減量効果がかなり大きいということが示されました。

でも、今までのSUSTAINシリーズと、PIONEERシリーズを見ていればそんなことは誰でも予想がつくものです。気になるのは有害事象に関するところですね。

胃腸障害、すなわち悪心、下痢、嘔吐および便秘は、最も頻繁に報告された有害事象であり、プラセボ投与群よりもセマグルチド投与群でより多くの参加者に発生しました(それぞれ152人中125人(82.2%)対82人(53.9%))。
消化器系の有害事象の多くは軽度から中等度の一過性のものであり、このような事象により、セマグルチド群では6名(3.9%)、プラセボ群では1名(0.7%)が治療を永久中止されています。

重篤な有害事象は、セマグルチド群では152名中12名(7.9%)、プラセボ群では152名中18名(11.8%)から報告されました。
セマグルチド群では1件の死亡が報告されましたが、独立した外部事象判定委員会により、試験製品とは無関係であると判断されています。
いずれの治療群においても、膵炎の報告はありませんでした。低血糖症状は2.6%報告されました。
セマグルチド群対プラセボ群では、胆嚢関連障害が4名(2.6%)対2名(1.3%)で、悪性新生物が2名(1.3%)対4名(2.6%)でそれぞれ報告されました。

悪性新生物に関する報告は、セマグルチド群では基底細胞癌とボーエン病が1件ずつでいずれも皮膚の癌ですが、現時点で関連性は不明です。プラセボ群では肺がんが2件(小細胞癌と腺癌が1件ずつ)、浸潤性乳管癌が2件となっています。
様々な人を寄せ集めて開始した研究なので、研究に関係なくたまたま悪性新生物を発症する方もいますので、研究との関係性は不明ということになります。

急性膵炎のリスクがあると言われているGLP1受容体作動薬ですが、膵炎の報告がないのは意外に思えるかもしれません。
セマグルチドの添付文書上の膵炎発症率は0.1%とされていますので、おそらく今回は研究サイズが小さく304名という小集団での研究だったため、より大きなサイズでの研究を進めていくと膵炎の報告が出るかもしれません。

以上が非糖尿病患者で高度な肥満患者に対するセマグルチドの効果に関する論文でした。
今後はさらに中等度の肥満患者に関する研究や、長期的な副作用に関する研究を期待したいですね。

おそらくですが、数年単位での「痩せ」自体が筋力低下や低栄養のリスクがあるため、GLP1受容体作動薬に関する長期的な有害事象についてもそういったところと関連する結果が出てくると思います。具体的にいうとフレイル(加齢に伴う身体・心身の虚弱)や骨粗鬆症などの影響が出てくるだろうと予想します。

持続して長期的にダイエット目的でGLP1受容体作動薬の服用を行うよりは、目標体重を設定して一時的に使用することが理想と言えるかもしれません。

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